森友学園の籠池泰典夫妻の逮捕から、間もなく9カ月。疑惑のど真ん中にいる安倍晋三夫人の安倍昭恵は、先週末の「桜を見る会」でシレッと笑顔を振りまいていたが、2017年3月の証人喚問で安倍晋三夫妻に都合の悪い事実を“告発”した籠池泰典は妻もろとも延々と拘置所に閉じ込められている。
2018年4月14日に3万人を集めた安倍晋三政権に退陣を求める国会前デモ。動画投稿サイトでは今、この場での立教大大学院特任教授の金子勝の演説が話題だ。こう訴えた。
「安倍晋三は歴代首相の中で最も愚か。論理的に考える能力が著しく欠けている。バカほど恐ろしいものはない。自らを批判する者を強権で弾圧するからだ」
愚かな安倍晋三に都合の悪い人物は強権発動で口を封じる言論弾圧。こうした「反安倍晋三狩り」の被害者が霞が関には掃いて捨てるほどいる。2013年に内閣法制局長官の首を、安倍晋三の意向通り集団的自衛権の「行使容認」積極派の外務官僚にすげ替えた。常軌を逸した人事権の乱用で、官邸の逆鱗に触れた高級官僚の報復人事が繰り返された。
実際、将来の有望株が飛ばされたり、次官候補が更迭された省庁は、総務省、外務省、農水省、宮内庁など枚挙にいとまがない。
揚げ句に「安倍晋三のご意向で行政がゆがめられた」と告発した前川喜平には「出会い系バー通い」のレッテル貼りで人格攻撃の粘着質である。
政権の覚えがめでたい官僚だけが重用され、官邸に逆らった人物には粛清の嵐。5年に及ぶ強圧手法が官僚に恐怖心を植えつけ、モラルや誇りを失わせ、ゴマスリ、嘘つき、忖度まみれの“ヒラメ官僚”がのさばる惨状を招いたのだ。
その結果、この国の官僚機構は音を立てて崩れ果てた。加計学園問題を「安倍晋三案件」とする文書が発見されても、なお「記憶にない」と言い張る柳瀬唯夫らのシラ切りコメント。ないはずの日報が次々見つかる防衛省・自衛隊の隠蔽体質。ついには財務官僚が歴史を冒涜する公文書改ざんの大罪に手を染め、さらには現役次官がセクハラ騒動で辞任……。もはや落ちるところまで落ちた腐敗ぶりだ。
改ざんを上から押しつけられて自殺した近畿財務局の男性職員は、「常識が壊された」と口にしたという。戦後70年以上かけて築き上げてきた民主主義の「常識」は、イカれた安倍晋三が権力を握ったたった5年間で元の木阿弥。この国の中枢は完全にぶっ壊れて焼け野原が広がっている。
立正大名誉教授の金子勝(憲法)は「昭和以降の歴代政権で、これだけ人事権をバックに強権を振るったのは、自分を批判した官僚らを戦地の前線送りにした東條英機内閣しか思いつきません」と語ったが、歴史と真正面に向き合ってきた人ほど、同様の思いを抱いているはずだ。
昭和史を徹底的に研究してきたノンフィクション作家の保阪正康もそのひとりだ。2018年4月21日付の毎日新聞に掲載された「公文書管理問題 東條英機軍閥内閣と同様の構図」と題するコラムで、痛烈に安倍晋三政権を批判した。
保阪は〈この国の骨格に今や大きなヒビが入っている〉要因として、
―――を指摘。〈太平洋戦争の末期と終戦時の国家体制の崩壊の折に、この3点が表出していた〉として、先の大戦時における東條英機内閣と安倍晋三政権の類似点をこう書きつづった。
〈(東條英機内閣の)独裁政治と自らの延命しか考えていない首相により国民はおびえ、沈黙し、そして面従腹背を生活上の知恵とした〉〈こと中央官庁の官僚だけを例にとると、その構図は東條英機内閣当時と同様ではないかとの思いがする〉〈この構図がわかった時、前述の②と③は官僚機構そのものが内閣に屈服している結果という側面がうかがえる〉
保阪は〈日本の現在が、「2度目の歴史だ」と断言してはばからないのである〉と締めくくったが、2年前の「注目の人直撃インタビュー」でもこう語っていた。
「安倍晋三は国会の答弁でよく“私が責任者ですから”と言うでしょう?あれは東條英機の言い方と同じなんですよ。政治権力の頂点にいる者が威張り散らすときの言葉で、東條英機は“俺に逆らうな”という恫喝の意味を込めてよく使いました。あんな言葉、普通の政治家は使いませんよ」
東條英機を「思想も意見もない」とコキおろしたのは、陸軍内で激しく対立した石原莞爾だが、なるほど東條英機と安倍晋三の恐ろしいまでの共通項は「無能」だけではなかった。
いや、むしろ安倍晋三やその取り巻きたちの独裁気質は東條英機以上かもしれない。前出の前川喜平は2018年4月14日の講演後の取材で行政腐敗の背景について、こう語っていた。
「全体主義に向かって国を変えていこうとする勢力があるのだと。それが政治を牛耳り、政治を牛耳ったことによって行政も牛耳る。そういう状況にあると私には見えます」
前川喜平が喝破した通り、東條英機に輪をかけてイカれた安倍晋三が政治を牛耳ったことで、この国は戦前と酷似した全体主義に向かいつつある。
官邸はもちろん、安倍晋三シンパの学者やジャーナリストらも報道圧力団体までつくって、メディアに目を光らせる。そして政権に批判的なテレビコメンテーターを降板に追い込み、政権に都合の悪い報道はフェイクニュースだと騒ぎ立てる。
中立性など度外視し、教育現場にも堂々と政治介入。安倍晋三チルドレンの文教族2人は、文科省を介して前川喜平に市立中学で講演させた名古屋市教育委員会への嫌がらせを「日常業務の一環」と開き直る。そのクセ、安倍晋三親衛隊の忖度官僚は「安倍晋三案件」と称して文部行政をネジ曲げ、安倍晋三の「腹心の友」の獣医学部創設を強引に進めた。
“坊主憎けりゃ袈裟まで”で国家権力を駆使して反安倍晋三派をとことん追い込む一方、「お友だち」には権力私物化で過大な恩恵を与える。まさに東條英機をも上回る独裁政治、権力の乱用ぶりではないか。敗戦を11歳で迎えた筑波大名誉教授の小林弥六はこう言った。
「国が危うい方向にカジを切る時に最も顕著に兆しが表れるのは『報道と教育』です。安倍晋三政権の報道と教育への異常な政治介入は東條英機内閣を彷彿させますが、決定的に違うのは彼らの道徳観です。
当時とは政治システムが違うとはいえ、天皇を尊崇する東條英機が明治憲法と軍閥とが相まった“国体”護持にこだわり、忠誠を誓ったのに対し、安倍晋三は現在の主権者たる国民を見下し、ないがしろ。国家統治の基本規範である憲法を無視した解釈改憲に飽き足らず、自分の強い意向で自衛隊明記の9条改憲に邁進。安倍晋三が自衛隊の指揮権を握れば、かつての『大元帥』のような立場となりかねない。安倍晋三は自己都合だけで国家改変を狙っているようにも見える。間違いなく、東條英機を上回るエゴむき出しの独裁者です」
前出の国会前デモの演説で立教大の金子勝はこう警鐘を鳴らした。
「安倍晋三が言っているのは、9条に自衛隊を明記する。つまり、あらゆる情報を隠す自衛隊をそのまま合憲にするということ。(これを許せば)いつでも戦争がそうであったように、証拠をでっち上げて自衛の名前で戦闘行為をすることが可能になる」
主権者の国民は民主主義を守るのか、安倍晋三独裁を許すのか。今がその分水嶺だ。
この政権を本当の「末期」にしなければ、この国は戦前の歴史を繰り返すことになる。