はれのひ株式会社は、神奈川県横浜市で振袖の販売、レンタル、着付け、フォトスタジオを運営していた企業。
2018年1月8日(成人の日)に突然休業し、翌2018年1月9日より全店舗を閉鎖し事実上の事業停止。2018年1月26日に横浜地方裁判所から破産手続開始決定を受けた。
設立当初の2011年は、「シーン・コンサルティング株式会社」の商号で振袖販売店向けのコンサルティング業務を主体に事業を展開していたが、翌年に横浜市内に店舗を開設し、販売・貸出へ本格的に参入。2016年2月に商号を現在の「はれのひ株式会社」に変更した。
最終的に振袖の販売・貸出を行う「はれのひ (Hare no hi)」の店舗として横浜みなとみらい店(コレットマーレ)、八王子店(サザンスカイタワー八王子)、つくば店(つくばクレオスクエアキュート)、福岡天神店(Qiz TENJIN・福岡市中央区大名1丁目に所在)の計4店舗を運営。フォトスタジオでは、着物を着ての撮影や記念写真の撮影などを行っていた。
店舗スタッフは全員女性で、品揃えの豊富さや価格の安さをセールスポイントにしていた。また、2020年までの全国100店舗展開や、株式上場、日本国外への進出も構想していた。そのため、従業員の採用活動も2016年時点では積極的に行なっていた。
ただし、求人サイトでは「従業員の定着率が高い」、「ノルマはない」などと謳っていたが、実際は過酷なノルマがあり、従業員の入れ替わりも激しかった。また、2016年末から給与の遅配が発生したことにより退職者が相次ぎ、2018年の破綻直前には従業員は約10人となっていた。
2018年の成人の日にあたる1月8日、はれのひは福岡天神店を除く全店舗を閉鎖したうえ、電話の連絡もできず、社長の篠崎洋一郎の所在も掴めない事態になった。ある店舗が入居する商業施設の管理担当者によれば、2018年1月6日までは通常通り営業していたが、2018年1月7日に従業員が出社しなくなったという。
同日の成人式のための着付け会場へ振袖を届けず無断で閉鎖したため、はれのひから購入またはレンタルで成人式での着付けを予約していた客が晴れ着を着られないという事態に発展した。これを受け、警察に200件余りの通報が寄せられた。福岡天神店のみ役員の指示を無視して同日も営業し、派遣会社も無償でスタッフを派遣して成人式での着付けを行ったが、翌日にはこの店舗も閉鎖し、事業停止状態となった。本社と同じビルに入居している別企業の関係者によると、2018年に入ってからはれのひの社員の出入りは一切なかったという。ただし、これが経営破綻(倒産。計画的な倒産を含む)による事業停止であるのか、あるいは自主的な事業停止(自主廃業を含めての)であるのかはこの時点で明らかにされておらず、篠崎は成人式の前から行方が分からなくなっていた。東京商工リサーチが2018年1月9日まで行った調査で、2016年9月期は約3億6000万円の赤字、約3億2000万円の債務超過であったことも明らかとなった。取引先の1社は「2017年から売掛金などの支払いが滞納するようになってきたため、取引縮小に努めていた」とコメントしている。
また、事件の約2か月前にフリマアプリ「メルカリ」および「フリル」で振袖を大量に出品する者がおり、これが「はれのひ」の関係者による出品ではないかという疑念もあり、両社は関連を調査しているが、仮に「はれのひ」の関係者でなくても、規約で「法人の出品の禁止」が明文化されているため、両社とも出品を非公開とする措置に踏み切った。一方、はれのひが洗濯や仕立てのために預けていた着物などの一部を京都府の取引業者が保管していたことが、2018年1月22日に明らかとなった。購入品やレンタル品のほか、客の私物など預かり物も含まれるが、はれのひが業者に代金を支払っていなかったため、そのまま管理・保管していたという。ただし、2018年の成人式分については同じく未払いであったが、当日のトラブルを防止するためにはれのひ側に発送したといい、保管していたものは翌年以降の成人式などに使う約70人分のみである。
なお、4つある店舗のうち福岡天神店のみ、前述のとおり2018年1月8日も営業した。また、つくば店についてはつくば市やその周辺自治体で成人式が1日早い2018年1月7日に挙行されたため、「成人式当日に晴れ着を着ることができない」というトラブルは発生しなかったものの、着付けが遅れて成人式に間に合わない人が出た。さらには、2019年以降に成人式を迎える利用者のうち支払いを済ませていた者らが、報道でトラブルを知って駆けつける様子が見られ、契約金額は1780万円に上ると報じられた。
契約金ベースの被害総額は2億円以上に上っており、警察も解明を進めているが、全容の解明には時間がかかる見通しである。
2018年1月26日にははれのひの代理人を務める弁護士が横浜地方裁判所に破産を申し立て、即日破産手続き開始決定を受けた。負債額は約6億3500万円(詳細は後節)。
一連の騒動による被害が拡大していることを受け、国や自治体も対策に乗り出している。成人式当日の2018年1月8日、はれのひの閉鎖店舗があった東京都八王子市では成人式の会場に特設の着付けスペースを急遽設け、着付けを手伝える人や美容師などへの協力を呼びかけた。また、同じく閉鎖店舗のあった横浜市では、被害に遭って当初より着付けなどの準備に時間を要する人が続出したため、成人式の午前の部に間に合わない新成人を午後の部に回すなどの対応を取った。
2018年1月9日、横浜市の消費生活総合センターでは今後さらに相談件数が増加することを考慮し、新たに特別相談窓口が開設された。消費生活総合センターは「領収書や契約書は保管し、クレジットカードで支払いをしている場合はカード会社に連絡して支払いを止めるようにするなど、まずは冷静に状況把握に努めることが大切」と話している。また同日、当時消費者及び食品安全担当大臣を務めていた江崎鉄磨が閣議後の記者会見において、「成人を迎えた方がどれだけ楽しみにしていたか。賠償をしても済まない」と発言し、今回の問題についても「想定外の問題だった。消費者庁として国民生活センターなどと連携して情報提供を行っていきたい」と述べ、消費者庁が「はれのひ」の経営状態や過去のトラブルについて情報収集を進め、被害の実態把握や被害者への情報提供に取り組む考えを表明した。そのうえで、消費生活センターに相談するよう呼びかけを行った。
成人式当日の2018年1月8日には、着付けを行う同業者や呉服店、美容院、名乗りを上げたボランティアスタッフらの協力により、はれのひの被害に遭ったものの晴れ着を着て成人式に参加できた新成人も数多くいた。また、同日には着物の業界誌を発行する京都市の雑誌会社「きものと宝飾社」が、被害者の負担軽減を目的として「はれのひ株式会社被害者の会」を立ち上げた。同社の松尾俊亮編集長はキャリコネの取材に対し、「着物業界は風評被害に弱く、1つの店の悪評が業界全体に響きます。みんながみんな、はれのひさんのようなことをしている訳ではないと知って欲しかった」という思いから、被害者の会を立ち上げたことを明らかにしている。さらに朝日新聞の取材に対しては、「大学の卒業式や来年の成人式のための代金を振り込んだ人もいると聞いている。訴訟も視野に支援を広げたい」とも語っている。
その後も被害者を支援する動きは広がっており、2018年1月12日にはお笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣が、「リベンジ成人式」と称して被害者に振袖を無償で貸し出し、2018年2月4日に横浜港で開催される船上ディナーに招待することを発表し、実施された。また同じ日には八王子市の美容師や呉服店主ら100人以上の有志による「八王子成人式プレゼント実行委員会」が、2018年2月12日にオリンパスホール八王子(2018年1月8日の成人式と同じ会場)で被害者のために再度成人式を執り行うことを発表。八王子市も後援に回り、当日は市長の石森孝志も駆け付けて実施された。2018年1月16日には、『小悪魔ageha』を刊行している「VENUS」が、被害者に振袖を無償で貸し出し、2018年2月3日に渋谷区にある小悪魔agehaスタジオにて「小悪魔ageha振袖撮影会2018」を開催することを発表した。衣装は2017年12月に発売された復刊第1号で使用された衣装を使用するほか、『小悪魔ageha』復刊第1号の撮影などに携わったスタッフも協力するという。さらに写真館などを展開するスタジオアリスは2018年1月23日、子会社が運営する「ふりそでAlice」の3店舗(横浜市・横須賀市・福岡市)で被害者を対象(2018年から2020年の成人式のためにはれのひを利用し、被害に遭った人が対象)に振袖のレンタルや写真撮影を無料で行うと発表した。撮影後もそのままレンタルを継続し、成人式などで同じ振袖を着ることも可能としている。
一方、横浜市では当初、市が成人式のやり直しを検討していると一部で報じられたが、同市教育委員会はITmediaに対し、「現時点では具体的な検討には進んでいない」とコメント。その後、2018年1月18日から2018年1月31日まで市役所内に「はれのひ」被害者特別法律相談窓口を設置したほか、翌19日には企業や団体からの被害者支援の申し出(サービス提供・企画)を紹介し、被害者自身がそれらのサービスなどを選択したうえで受けられる特設サイト「新成人への善意の輪」(同市教育委員会運営)を開設している。支援は2018年2月28日まで受け付け、横浜市周辺以外の事業者も多数申し出ていた。また、神奈川青年司法書士協議会では、2018年2月6日から2018年2月28日まで、無料相談を受け付けていた。
2018年1月26日、横浜地方裁判所がはれのひの破産手続き開始を決定した。東京商工リサーチが算出している「リスクスコア」は、2017年3月以降にはのままであった。求人サイトには虚偽の売上高を掲載していたことが明らかとなっているほか、2017年9月期決算が確定していないことや、2017年12月に金融機関の追加融資を受けられなかったことも明らかとなった。同日19時からは、事業停止後姿を見せていなかった社長の篠崎洋一郎が横浜市内で記者会見を開いた。破産申立代理人の弁護士によると、負債額は約6億3500万円。また、約1200着の振袖が保管されているのを確認しているという。記者会見で篠崎は営業を停止した理由について「人件費のコストが拡大して大幅な赤字となった。売り上げの減少に歯止めがかからず、成人式当日の着付け費用の支払いのメドがたたないことからこのような事態となった」と会見したほか、成人式当日には知人宅に滞在していたことも明かした。
被害者が預けていた着物の返還は、破産管財人によって2018年1月29日に開始された。ただし、レンタルの着物は対象外となる。
官報での破産手続開始の公告は2018年2月6日付で掲載され、第1回債権者集会は2018年6月20日13時30分より開催される。