想像をはるかに上回る改ざんの数だった。財務省が森友学園への国有地売却をめぐる決裁文書の調査結果で、書き換えを認めたのは14文書。計78ページのうち、実に約300カ所も改ざんしていた。
これだけ大規模な公文書の改ざんが実行されたのだ。内閣全体が責任を負わなければいけない。国会を欺き、国民に事実を隠蔽すれば、行政の何もかもが信じられなくなる。日本の民主主義の土台を揺るがす前代未聞の不祥事である。むろん、関与した財務官僚らも改ざんが表面化すれば、大変な事態を招くことは百も承知だったはず。それでも、虚偽公文書作成という犯罪へと駆り立てた要因とは何だったのか。
安倍晋三政権は未曽有の不祥事の責任を、当時の理財局長だった佐川宣寿に押しつけようとしている。麻生太郎は佐川宣寿の答弁との整合性を図るためと説明したが、一局長をかばうためだけに、これだけ大掛かりな改ざんを一部職員が独断で進めるとは考えにくい。
また、安倍晋三への単なる「忖度」だけで、官僚が犯罪に手を染めるリスクを負うだろうか。かなり政治的に高いレベルからの指示があったとしか思えないのだ。
はたして誰が、いつ、改ざんを指示したのか――。現時点では定かではないが、改ざんに関与した財務官僚の心情を考える上で、改めて注目されるのは安倍晋三の国会答弁だ。2017年2月17日の衆院予算委員会で豪語した「私や妻が(国有地売却に)関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」というアレである。
財務省が改ざんを始めたのは「2018年2月末」。この安倍晋三発言の直後だ。森友問題を巡って首相のクビがかかったことで、財務官僚たちが相当な刺激や重圧を感じたのは間違いない。その証拠に、改ざん文書からは一連の取引の「特例的」「特殊性」をにおわす安倍昭恵の足跡について細大漏らさず削り込まれていた。
安倍晋三の「辞める」発言が、財務官僚に対する事実上の“指揮権発動”となり、組織ぐるみの証拠隠滅へと突き動かしたのではないか。この発言で安倍晋三はハッキリと指示は出していないが、自身の不用意な発言が同じ効果を生んだことを恥じるべきだ。それだけ官僚にとって、安倍晋三の言葉は重いのだ。
財務省が改ざんを認めた直後、安倍晋三はまるで他人事のように「なぜこんなことが起きたのか」と語っていた。ひょっとすると、前代未聞の不祥事が露呈し、「バレないように指示したんじゃなかったのか」というもどかしさを吐露したのかもしれない。