防衛省が国会で「不存在」と説明していた陸上自衛隊のイラク派遣部隊の日報が見つかった。情報公開請求に対して、本来開示すべき文書を開示していなかった問題も発覚。南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報隠蔽(いんぺい)問題に続き、防衛省・自衛隊は文書管理を巡る意識の甘さを露呈した。文書が見つかり開示されるに至った経緯を振り返り、いまだ説明されていない疑問に迫った。
2018年3月31日朝の防衛省。土曜日にもかかわらず11階の大臣室に、小野寺五典や防衛省幹部が集まった。出席者には、イラク派遣部隊の日報が見つかった経緯をまとめた2枚の文書と日報のサンプルが配られた。
「なぜ、2017年の(陸自の)調査で見つからなかったのか」。小野寺が追及しても幹部からは明確な回答はなかった。「週明けには安倍晋三首相官邸に報告し、公表する。詳細を早く調べるように」と指示があり、緊急会議は終了した。
イラク派遣時の日報は2017年2月、南スーダンPKOの日報問題で国会が紛糾する中で野党が取り上げた。2017年2月16日の資料要求に対して、防衛省は統合、陸上、航空の3幕僚監部の部隊運用担当課を調査し「不存在」と回答。17日に野党議員から衆院予算委員会での質問の通告があり、調査対象を陸上自衛隊研究本部(現・教育訓練研究本部)などに広げたが確認できなかった。当時の稲田朋美は20日の同委員会で「残っていないことを確認した」と断言した。
だが、実際には防衛省内の調査は2017年3月10日まで続いていた。最終的に文書は確認されなかったが、政府関係者は「稲田の答弁は踏み込み過ぎだ。『存否を確認できなかった』と答えるべきだった」と振り返る。
当時、国会では「廃棄した」とされていた南スーダンPKOの日報が見つかり、PKO参加5原則に抵触する「戦闘」との記述を隠すためだと野党側が追及していた。イラク派遣でも自衛隊の活動地域が「戦闘地域」に該当するかどうかが論点になった経緯がある。仮にイラクの日報に「戦闘」との文言があれば、野党が勢いづくのは必至だった。希望の党の泉健太は3日の記者会見で「国会審議中の発覚をおそれ、隠蔽につながったのならば言語道断だ」と指摘した。
防衛省は遅くとも2018年2月27日には、過去に国会で「不存在」とした日報が見つかったことを把握していた。しかし、小野寺への報告は2018年3月31日、公表は安倍晋三への報告を経た2018年4月2日だった。小野寺は2018年4月3日の記者会見で「何かあったらすぐに報告しろと指示を常々出している。経緯を確認したい」と不満をにじませた。
陸上幕僚監部は2017年11月27日、南スーダン日報問題の再発防止策の一環で、日報など「定時報告文書の集約」を全部隊に指示した。自衛隊の海外派遣の状況を分析する陸自研究本部教訓センターで遅くとも2018年1月12日にファイル名「教訓業務各種資料」の電子データ(PDF)、医官らが所属する陸幕衛生部で2018年1月26日にファイル名「国際復興支援業務」の紙媒体が見つかった。
陸幕総務課は両部局を含む全国分をとりまとめ、2018年2月27日に文書のリストを統幕に報告。国会対応を担う統幕が過去に「不存在」としたイラク派遣の日報が含まれていることに気づき、2018年3月2日に実際に日報を提出させた。
しかし、統幕は小野寺や豊田硬らにすぐには報告しなかった。当時は2018年度予算の審議中で、学校法人「森友学園」への国有地売却を巡る文書改ざん問題が発覚。統幕は「日報の探し漏れなどを精査、確認していた」と釈明しているが、防衛省幹部は「国会で火の粉をかぶるのを懸念し、月末の予算成立後まで待ったと思われても仕方がない」と語る。
「日米の動的防衛協力」と題する文書について、2017年5月の情報公開請求に対して本来開示すべき文書を不開示としていたことも今回発覚した。開示直前に文書の電子データが更新されていたことも判明。野党は財務省の文書改ざん問題を念頭に「防衛省でも文書の改ざんや抜き取りがあったのではないか」と批判を強めている。
発端は2018年3月30日の衆院外務委員会。共産党の穀田恵二が、独自に入手した文書と防衛省が2017年開示した文書を比較し「ほとんど同じだが、開示文書には抜けている所がある」と指摘した。山本朋広は、穀田が入手した文書は「防衛省が対外的に明らかにしたものではなく、真贋(しんがん)も分からない」と回答を避けた。しかし、質疑を受けて、防衛省が確認したところ、2018年3月30日夜に同じ表題で内容が一部異なる二つの文書の電子データが日米防衛協力課の共有フォルダーから見つかった。さらに2017年開示した文書の電子データが、開示直前に更新されていたことも判明した。防衛省は新たに見つかった文書は本来は開示対象だったとして「探し方が不十分で情報公開請求時に見つけられなかった」と陳謝。不開示部分を黒塗りした上で2018年4月2日に穀田らに開示した。
一方、データ更新については、防衛省では電子データ上で不開示部分を枠で囲ってから印刷し、上司に決裁を仰ぐ手続きを取る。この際、別文書として保存するルールだが、誤って原本を上書き保存するなどの不手際があった可能性がある。ただ、意図的に文書が書き換えられた可能性も残っており、防衛省はデータの更新記録などを検証する。