注目の証人喚問は肩透かしに終わった。佐川宣寿は、核心部分について徹頭徹尾、証言拒否を貫いた。官邸の“防衛戦”は、今のところうまくいっているといえるだろう。
しかし、これによって政権への疑いが晴れたわけではない。安倍晋三政権に引導を渡す“爆弾の導火線”はこれだけある!
とにかく腑(ふ)に落ちない証人喚問だった。
佐川宣寿は、4時間余りの質疑で、約50回にわたって“刑事訴追の恐れ”を理由に証言を拒否。そのくせ、森友学園への国有地払い下げについて、安倍晋三や安倍昭恵関与がないことだけは、「ございません」と断言した。
「佐川宣寿は質問者の向こうに国民がいることがわかっていない。見ているのは安倍晋三と官邸だけ。そのことがはっきりとした証人喚問でした」(ジャーナリストの川村晃司)
野党議員の質問も、佐川宣寿を攻めきれなかった。
2017年2月17日の衆院予算委で、「(国有地払い下げに)私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」との答弁を安倍晋三から引き出した福島伸亨が言う。
「野党の質問は迫力不足。佐川宣寿の証言はツッコミどころもあったのに、そこを突けなかった。例えば、佐川宣寿は国有地の取引問題を『自分なりに勉強した』と何度も証言した。だったら、野党議員はその場で『勉強は何を使ってしたのか? 取引の経緯を記した資料ではないのか?もしそうなら、その資料を提出しろ』と迫るべきでした」
福島によれば、佐川宣寿は財務省内では徹底した“資料魔”として知られていたという。
「私が資源エネルギー庁の統括係長時代、電源特別会計の資料をまとめて財務省に持っていったことがあるんですが、そのとき、主計局の主査として対応してくれたのが佐川宣寿でした。財務省の知人にどんな人?と聞くと、『資料を徹底的に読み込んで、政治家や省幹部に対応する。24時間、部下に資料作成を要求する資料魔みたいな人』と苦笑していましたね。そんな佐川宣寿が国会答弁にあたって、国有地の取引について書かれた資料に目を通していないはずがない、と思います」(福島)
とはいえ、佐川宣寿は徹底した証言拒否で、野党の追及をかわした。もはや、佐川宣寿から引き出せるものは何もないのだろうか?元検察官の郷原信郎弁護士はこう話す。
「佐川宣寿は自由党の森裕子に『森友問題について、今井尚哉と話をしたことはないか?』と聞かれ、最初の2回は答えをはぐらかしていたのに、最後に『ない』と断言してしまった」
もし、検察の調べによって接触していたことが判明すれば、偽証罪での告発は避けられない。
「この証言は佐川宣寿にとって重大な禍根になるかもしれません」(郷原)
森友事件を取材する全国紙政治部記者も言う。
「大阪地検は佐川宣寿と今井の通話記録を取り寄せたという情報もあります。それでふたりが連絡をしていたことがわかれば、重大な局面を迎えます」
「検察は周りが想像する以上に世論を気にするものなんです。佐川宣寿は刑事訴追の恐れを理由に証言を拒みまくった。それで国民の間に、『だったら、本当に佐川宣寿の刑事責任を問え』というムードが高まれば、検察はその世論に押されて強制捜査に着手し、佐川宣寿の聴取、場合によっては逮捕に踏み切ることになるかもしれません」
もし、そうなれば佐川宣寿政権はレームダック(死に体)どころではない。
「内閣総辞職、あるいはそれをしのいだとしても、今年9月にある自民党総裁選への出馬を安倍晋三が断念せざるをえない可能性が大です。私は後者のシナリオになる可能性が高いとみています」