森友学園問題に絡んで、俄かに注目度が増しているのが財務省だ。
過去にもさまざまな問題、疑惑で財務省がニュース沙汰になることがあったとはいえ、佐川宣寿や後任の太田充ほどワイドショーで取り上げられた財務省キャリアは少ないかもしれない。
一般にエリート中のエリートの集団とも言われる財務省キャリアとはどういう人たちなのか。
東京大学卒業後、財務官僚となり、現在は弁護士やテレビのコメンテーターとしても活躍中の山口真由は、著書『いいエリート、わるいエリート』で、かつての同僚たちの個性あふれるエピソードを紹介している。以下、同書をもとに知られざる財務省キャリアたちの素顔を見てみよう(引用はすべて『いいエリート、わるいエリート』より)。
東京大学法学部をオール「優」で首席卒業し、財務省に入ったのは2006年のこと。在学中に司法試験にも合格している。これだけの成績の才媛ならば財務省も大歓迎だっただろう、と思ったら大間違い。
一対一で行なわれた財務省の採用面接で、面接官の秘書課長は山口に対してこう問いかけた。
「これまでのお前の人生を10分で聞かせろ」
今時、面接相手を「お前」呼ばわりすること自体珍しいが、山口はその衝撃に耐え、必死に生い立ちを語った。子供の頃のコンプレックスをどう克服したか、高校時代に札幌から東京に上京して「田舎の子」扱いされたこと等々。
懸命に話したが、時計を確認すると3分しか経過していなかった。ふと顔を上げると、秘書課長は「たった3分で話がつきるのか」という表情を浮かべている。そして、彼の口からはさらにきつい言葉が吐き出された。
「つまんねえ人生だな」
その真意は不明だが、「お前」よばわりといい、一般企業ならばすぐにSNSにあげられて、ブラック呼ばわりされること必至の面接なのであった。
「家畜」呼ばわりも
山口は入省後、主税局に配属される。
「翌日から、自分がいかに無価値であるかを徹底的に教え込まれることになります」
山口に限らず、新人たちはみんなキャリアの試験をトップクラスの成績でパスした者ばかりだ。その彼らのプライドをまず捨てさせるのだという。
「大学を優秀な成績で卒業して、自信満々で入省してくる新人というのは、どちらかというと使いにくいのだと思います。理屈が通らない限り動かないというのでは、仕事になりません。
さらに『自分は頭がいい』と自任している態度というのは、鼻につくものです。そういう鼻につくプライドをすべて洗い流すために、官僚組織においては、自分がいかに無価値であるかを、新人時代に徹底的に思い知らされます」
たとえばコピー取りひとつとっても、こんな調子だったという。
「山口、この書類、コピーとって」
「何枚コピーしますか?」
「適宜」
適宜が何枚かは教えてくれない。書類の内容などから推測しなければならないのだ。山口はこう振り返っている。
「1年間、徹底的に無価値な存在として扱われると、多くの場合、ものすごく素直な人格がつくられます。そして、その後は与えられることをあたかもスポンジであるかのように吸収することができるようになるのです。
そうした組織の理屈は理解できたものの、財務省の1年目は地獄のようにつらい毎日でした」
冗談めかしてであるが、1年生は「家畜」と呼ばれることもあったという。およそ現代の組織とは思えぬ文化がいまだに残っているようなのだ。