誰が、どのように決めたのか。学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地売却を巡り、財務省が契約に関する決裁文書を改ざんし、安倍晋三の妻安倍昭恵に関する記述などを削除していたことが2018年3月12日、明らかになった。調査結果は公表されたものの、問題の核心について財務省のトップは言葉を尽くさず、真相解明を求める人たちは憤りの声を上げた。
麻生太郎は午後2時5分ごろ、財務省1階のエレベーターホールで待ち受けていた約100人の報道陣の取材に応じた。「極めてゆゆしきことで誠に遺憾。深くおわび申し上げる」。書面に目を落としながら謝罪はしたものの、頭を下げることはなかった。
安倍晋三の妻安倍昭恵の名前が文書から削除された理由を聞かれると「他の政治家の名もある資料で全員を書き換えたのでは」と返し、安倍晋三や安倍昭恵を守るために削除したとの見方を「全然関係ない」と否定。「政治家や政府へのそんたくが働いたと考えるか」との問いかけには「考えないです」とだけ答えた。
また、改ざんに至るまでの詳細な調査については「捜査が終わった段階でなければ進められない」と突き放した。用意された書面には、言い間違えのないよう「捜査」「調査」と読み仮名が記されていた。取材中ほとんど表情を変えなかった麻生太郎だが、「(1社で)5問も6問も質問しないでくれねえかな」といら立ちをにじませ、記者の質問をさえぎる場面も。わずか15分で打ち切った。
財務省が公表した決裁文書からは、森友学園前理事長の籠池泰典被告(65)=詐欺罪などで起訴=と、安倍晋三の妻安倍昭恵の関係をうかがわせるくだりや、一緒に写った写真の存在が削除された。
籠池泰典被告は逮捕前、安倍昭恵と知り合ったのは2012年10月ごろだったと明かしていた。安倍晋三を「大ファン」と慕い、開設を目指した小学校名を一時「安倍晋三記念小学校」としたほど。運営する塚本幼稚園での講演を安倍晋三に打診する過程で交流が始まった。
14年4月には、安倍昭恵を小学校予定地に案内し、安倍昭恵は「いい田んぼができそうですね」と語った。小学校名は「瑞穂の国記念小学院」になった。2015年9月、安倍昭恵は幼稚園で講演した際に小学校の名誉校長に就任(その後、辞任)。籠池泰典被告はその際、安倍昭恵から「100万円の寄付金を受け取った」としたが、安倍昭恵は否定した。
国有地取引でも安倍昭恵の名前が取りざたされた。籠池泰典被告は財務省近畿財務局との交渉内容を安倍昭恵に何度も報告した、と証言。2015年秋には、予定地の借地契約に関して安倍昭恵に相談するため、留守電に伝言を残したといい、安倍昭恵の政府職員が財務省に要望を伝えたこともあった。
2016年3月には、予定地から大量のごみが見つかり、財務省に乗り込んだ籠池泰典被告は安倍昭恵の名前を挙げて対応を求めた。3カ月後には、ごみ撤去を理由にした約8億円の値引きと異例の分割払い(10年間)が実現。籠池泰典被告は「安倍昭恵に名誉校長になってもらい、土地問題がスピーディーに動いた」と述べている。
安倍昭恵は2018年2月、福岡県田川市を訪問した際に「何にも関わっていない」と報道陣に答えた。
東京・永田町の首相官邸前では、内閣総辞職を求める人たちが集まり「うそをつくな」「国民をなめるな」と怒りの声を上げた。親子で参加したさいたま市の女性会社員(51)は「このままうやむやにしたら日本が駄目になる」。高校2年生の長女(17)は「本当のことを言わずにごまかしてばかり。納得がいかない」と語った。
仙台から名古屋に向かう途中で駆けつけた会社員の男性(60)は「安倍晋三は逃げ続けていれば国民は忘れると思っている。国民をバカにしている」と退陣を求めた。
学園との交渉記録開示を求める裁判を起こした上脇博之・神戸学院大教授は毎日新聞の取材に、改ざんの背景について「『私や妻が関わっていたら総理大臣をやめる』と述べた安倍晋三の答弁が引き金になったのでは。そんたくのレベルを超えている」と指摘。真相を解明するには「安倍昭恵や佐川宣寿(前国税庁長官)らの証人喚問が必要だ」と訴えた。
決裁文書改ざん問題で、会計検査院が昨年実施した検査に、財務省が改ざん後の決裁文書3件を提出していたことが判明した。2018年12日の野党のヒアリングで検査院の担当者が明らかにした。財務省と国土交通省から提出された文書が異なっていたことから検査院が財務省に問い合わせたところ、財務省は「(財務省の文書が)最終版」と回答していたという。
検査院の説明によると、土地の貸し付け契約に関する2件と売却契約に関する1件で改ざん後の文書が提出されていた。国交省からは改ざん前の文書が提出されており、検査院は検査中に2種類の文書があることに気付いたが、財務省側の説明に基づき改ざん後の文書で検査を終了していた。
財務省近畿財務局で学校法人「森友学園」への国有地売却を担当する部署に所属し、自殺した男性職員の親族が12日、毎日新聞などの取材に応じた。親族は仕事の詳しい内容や遺書の有無については知らないとした上で「本来やるべきでないことをやらされたのではないか。全てが明らかになってほしい。死を無駄にしないでほしい」と話した。親族によると、職員は2017年8月、「月100時間の残業が続き、つらい。常識が壊された」と電話で話していたという。
決裁文書が改ざんされていた問題について、愛知県の大村秀章は2018年12日の定例記者会見で「国会に対する冒とく。やった行為は極めて重大かつ悪質」と批判し、麻生太郎の責任問題について「財務省という組織が引き起こした事態。そのトップである財務大臣の責任は免れない」と指摘した。
大村は、自身が元農水官僚だったことを引き合いに「(公務員が)決裁文書本体を書き換えることは普通は考えられない。国会の議論の前提となるデータや情報が違っていたということはあり得ない」と非難。政治家の責任問題について、「現場の担当者レベルでやれることではない。知っていて黙認したのであれば同罪だ」と述べた。