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森友学園への国有地売却を巡って、安倍晋三政権が窮地に陥っている。問題は公文書改竄にも波及しているが、事の発端は安倍晋三夫人の安倍昭恵が、学園がつくる予定だった小学校の名誉校長に就任したことだった。元「週刊現代」編集長の元木昌彦は、「なぜ安倍昭恵『ワーストレディ』と呼ばれるまでになったのか」と安倍晋三夫婦の歴史を振り返る。

桐野夏生の小説『OUT』のような気持ち

安倍晋三に会ったら一つだけ聞いてみたいことがある。

「あなたはを殺したいと思ったことがあるか?」

卑近な例で申し訳ないが、私は何度かカミさんを殺したいと思ったことがある。カミさんのほうはもっと多いはずだ。

週刊誌がよくやる人妻匿名座談会で、「夫と別れたいと思ったことはないが、殺したいと思ったことは何度かある」という本音が飛び出すことがある。

もちろん愛情からではない。こんな結婚して、自分の人生をめちゃめちゃにされた落とし前を、離婚なんて形で済まそうなんて絶対許せない。桐野夏生の小説『OUT』のように、殺して切り刻んでやらなければ腹の虫が治まらない、そういう思いからなのではあるまいか。

何十年も一緒に暮らしていても、は決して分かり合えない“闇”をお互い抱えているものである。

森友問題の発端は「名誉校長」への就任だった

今や安倍晋三政権を崩壊させかねない森友学園問題だが、元はといえば、安倍昭恵籠池泰典の運営する幼稚園の教育方針、教育勅語の朗誦、自衛隊への慰問、伊勢神宮参拝といった戦前回帰教育に感銘を受け、籠池泰典がつくる予定の神道系小学校の名誉校長に就任したことから始まった。

通称アッキーといわれる安倍昭恵をもじって、安倍のアッキーレス腱、アッキード事件、アッキーゲート、アベノリスクなどと揶揄されているが、本稿は、その問題を追及するものではない。

安倍晋三安倍昭恵という夫婦の歴史をたどりながら、なぜ彼女が、稀代の悪女、ファーストレディならぬワーストレディとまでいわれるようになったのかを考察してみたい。

電通では「宴会部長」として名をはせていた

安倍晋三は、岸信介を祖父に、安倍晋太郎を父に持つ政治家の家系であることはいうまでもない。岸、晋太郎はともに東大卒だが、晋三は小学校から大学まで私立の成蹊で、卒業後は神戸製鋼所に入社している。

その後、外務大臣に就任していた父・晋太郎の下で秘書官を務めるようになる。

安倍昭恵の両親は、母は森永製菓創業者の娘・恵美子、父は同社の番頭で後に社長になった松崎昭雄である。

聖心女子学院初等科・中等科・高等科を経て、聖心女子系列の専門学校を卒業。勉強はできずに、専門学校ではもっぱら「飲み会要員」だった。

良家の子女がコネで入ることが多い電通に入社。新聞雑誌局に配属されたが、仕事といえば、お茶くみばかりで、何より楽しかったのはランチタイムとアフターファイブで、今日の昼ごはんは何を食べようか、今度の飲み会は誰を誘おうかとか、そんなことばかり考えていたと自著『「私」を生きる』に綴っている。

当時の人気ディスコ・ジュリアナ東京では、ロングヘアにボディコン姿で、夜な夜な踊る安倍昭恵の姿が見られ、電通では「宴会部長」として名をはせていたそうだ。

「一緒になったら苦労するから、帰ろう」と忠告した

安倍晋三家と親交のある濱岡博司・元山口新聞東京支局長が『週刊新潮』(4/5号)で、安倍晋三の母親・洋子から、「息子はもう30歳になろうかというのに独身で、良い人いないかしら?」と頼まれ、濱岡が仕事で付き合いのあった電通の人間に相談したら安倍昭恵を紹介されたという。

だが、初めて待ち合わせた場所に、安倍昭恵は50分も遅刻してきたそうだ。濱岡は「時間の観念もないようなと一緒になったら苦労するから、帰ろう」と忠告したが、安倍晋三は「安倍昭恵は憧れの人なんです」といって席を立たなかったという。

以前、両家の子女の集まりで会っていて、話はしたことはないが、「彼女はスラリとしていて、遠くから見てカッコいいんですよ」と、濱岡にいったそうである。

その当時、安倍昭恵には電通に彼氏がいたという。だが、「後に社長になる成田(豊)さんたちが考えを巡らせたんでしょう」(濱岡)、その彼を海外へ赴任させて、結婚の環境づくりをしたのではないかというのだ。 そんなこともあってか、濱岡は安倍晋三結婚するといったときにも、「やっぱりやめておけ」といったが、安倍晋三は「いいんです。大丈夫ですから、黙って見ててください」と押し切った。

この結婚、夫の側に惚れた弱みがあって始まったようだが、今になれば、濱岡のほうに人を見る目があったということになろう。

芸能人から、大麻愛好家、元暴力団員、反原発の闘士まで

結婚当初、安倍昭恵安倍晋三のことを、「非常に生真面目な感じがしました。見た感じ、ちょっと神経質そうな、線が細いというか、から何か言われると気にしてしまうところもありました」と、『新潮45』(2013年9月号)で話している。

安倍昭恵のほうは、結婚当初は「安倍晋三よりずいぶん早く起きて、お化粧もして、和食の朝ご飯をつくっていました。いつごろから崩れたのか、もう記憶は定かではありません」と自著に書いているように、酔狂伝説は枚挙にいとまがない。

自分でも、「どうも、飲むのが人一倍速いようです。とくに『まずビール一杯』は誰よりも速い。自分より速い人がいると、『あっ、負けた……』と悔しくなるほど」といっているように、初めから最後までビールをヘベレケになるまで飲み続けるそうだ。

ノミュニケーションで広げた人脈は、芸能人からミュージシャン、大麻愛好家、元暴力団員、反原発の闘士まで、広いというより、節操なく場当たり的に広げていくのである。

これには同情すべき点もある。不妊治療まで受けたが子供が授からなかった。マンションの上の階には洋子という怖い姑の眼が常に光っているのだ。

本来、自分も人前に出るのが好きではないといいながらも、選挙になれば、引っ込み思案な安倍晋三に代わって、支援者周りや応援演説をこなさなければならない。

2ちゃんねる」にまで目を通していた

見よう見まねで政治家の妻を演じているうちに、頼りなさそうだった安倍晋三が、2006年に総理大臣の椅子に座ることになるのだ。

小泉純一郎が独身だったこともあって、若いファーストレディは世間の注目を集めたが、安倍昭恵は、どう振る舞っていいかわからず、その答えをパソコンに求め、「2ちゃんねる」にまで目を通していたとノンフィクション・ライターの石井妙子は書いている。

「“バカ”“ブス”から始まって、いろんな悪口が書かれている。安倍晋三には『落ち込むなら見るな』と注意されましたが、やめられなかった。ちょっと病んでいたのかもしれません」(『安倍昭恵「家庭内野党」の真実』文藝春秋2017年3月号掲載)

それが「どん底」を味わって変わったという。2008年、消えた年金問題などで支持率ががた落ちして、参院選で歴史的惨敗をする。

その上、持病の潰瘍性大腸炎が悪化して、安倍晋三は辞任せざるを得なくなったのだ。

「その時は、もう一度総理になるなんて想像もしなかった。首相夫人を短いながら経験し、『どん底』も知って、これからは政治家の妻としてではなく、私らしく自分の人生を生きたいと強く思った」(『安倍昭恵「家庭内野党」の真実』より)

安倍晋三は「店をやるには2つ条件がある」といった

2012年に50歳、結婚生活25年を迎える。そこから人生を再スタートさせたい、そう自分に誓ったというのである。

その決意の表れが2012年に開店した居酒屋「UZU」であった。店をやると安倍晋三に打ち明けようと、「ちょっと話がある」というと、安倍晋三は「何をいわれるのかドキドキしていた」そうだ。

ただの一議員になり深刻な持病のある安倍晋三は、別れ話でもいい出されるのかと思ったようだ。

そうではないとわかり、ひと安心した安倍晋三は、店をやるには2つ条件があるといったそうだ。店では絶対飲まないこと。1年で赤字だったら店を閉めること。

安倍昭恵が、居酒屋の主人になると、これまで以上に自分は放っておかれると危機感を持ったのではないか。

安倍晋三は、周囲が大反対するのにも関わらず、もう一度総裁選に出るといい出すのだ。そして、大方の予想を裏切って当選し、再度総理の座につくのである。

だが、安倍昭恵は、以前のような妻ではなかった。ファーストレディという座を今度は自分のために最大限に利用する、権力者の妻という力をフルに使って、自分のやりたいことをやる、そう決意していたのである。

安倍昭恵の根っこにあるのは無責任ということ」

「UZU」の経営は、再び安倍晋三が総理に返り咲いたことで連日満員になり、赤字の心配はなくなったが、飲むほうは一層拍車がかかり、ほぼ連日、帰宅は安倍晋三より遅くなった。

深夜のバーでミュージシャンの布袋寅泰の首筋にキスするなど酔態を晒す安倍昭恵の姿が何度も目撃されている。家庭内野党宣言をして、東日本大震災の被災地に400キロに及ぶ防潮堤をつくることに反対したり、山口県知事選に立った反原発の闘士の応援を買って出たりした。

突然、沖縄県東村の高江のヘリパッド建設反対運動を見学に行き、真珠湾を訪問。また雑誌の対談で、小池百合子に「日本を取り戻すことは大麻を取り戻すこと」だといい放つなど、右脳の赴くままに行動してきた。

そのほとんどが思い付きの域を出ないため、反原発の環境学者・飯田哲也に「安倍昭恵の根っこにあるのは無責任ということ。(反原発の活動も)あまり深く考えずにやっていたのでしょう。森友問題と同じです。今はもうコミュニケーションはありません」といわれてしまう始末である。

大麻関連では、主義を同じくしていた元女優や栽培していた人間など3人が、大麻所持の現行犯で逮捕されている。森友学園の籠池泰典などを含めると、彼女と親しかった5人が逮捕されているそうだから、安倍晋三としては、家庭内に犯罪予備軍を置いているようなもので、片時も落ち着くことがないだろう。当人は、そんなことはまったく意に介さないようだが。

神様に「どうぞ私をお使いください」と念じている

森友学園に国有地を払い下げた経緯を記した公文書を財務省が「改ざん」したことが、朝日新聞の調査で判明した。削除された中に、安倍昭恵の名前や、この取引の「特殊性」という言葉があり、改ざんを命じられた財務省人間自殺しても、事の重大性を認識できずに、スキーだマラソンだと、相変わらず出歩いている。

それが証拠に、佐川宣寿の証人喚問を見て、「私も真実が知りたい。これ以上犠牲者が出ないでほしい。世界の平和と環境を守るため命がけでやっていきます」(『週刊ポスト』(4/6号)での立花孝志葛飾区議のコメント)といっているそうだ。汚れなき童女のような心を持ったオバハンなのかもしれないが、そうだとしたら余計に始末が悪い。

安倍昭恵のいい草はいつも同じである。「私は神様に『どうぞ私をお使いください』と念じて、その思いを汲み取り動いている」「縁はがもたらすもの」とたびたび語っている。

この夫婦に共通しているのは、スピリチュアル的なもの、神道的なものを信じていることだ。安倍晋三は毎日寝る前に、祝詞のようなものを上げていると、以前、安倍昭恵が語っていた。

スピリチャルマスターと自称した故・江本勝と安倍家は親しくしていたそうだ。水にありがとうと話しかけるときれいな結晶をつくり、汚い言葉を投げると結晶を結ばない、水は思いを受け取るという江本の「波動理論」に安倍昭恵は感化されているといわれる。

居酒屋「UZU」もアメノウズメノミコトからとっている。

自分は選ばれた者という過剰な選民意識

こうした「私をお使いください」という言い方には、自分は選ばれた者という過剰な選民意識を感じてしまうのは、私だけではないだろう。

森友学園の籠池泰典の国粋主義的な教育に単純に感激して涙を流し、国有地払い下げの土地に立つ予定だった小学校の名誉校長になることを承諾して、「必要だったら私の名前を使ってください」といったに違いない。

籠池泰典は、最大限、彼女の名前を利用し、役人たちは、安倍昭恵の後ろにいる安倍晋三忖度して、最大限の便宜を図ったことは間違いない。

安倍昭恵は、「その時はよかれと思ってしたことなのに、なぜ今になって批判されなくてはいけないのか」と思っているのに違いあるまい。

安倍晋三は永田町ではかつてないほどの権勢を誇る。言論抑圧法案も、初等教育で道徳を教えることも、憲法九条の2項を変えずに自衛隊を認めるというバカな思い付きも、異を唱える者など党内にはほとんどいない。

何をいうかわからない安倍昭恵を出せば、身の破滅になる

だが、田中角栄が娘の田中眞紀子を恐れたように、安倍晋三安倍昭恵を恐れているように見える。

森友問題を追及されていた2017年2月17日の答弁で、「この問題にが関わっていたら」といえばよかったものを、「が関わっていたら総理も議員も辞める」といってしまったため、安倍昭恵の痕跡を消さなくてはならなくなってしまった。だが、消す後から後から、新たな関与が判明し、国会で、安倍昭恵に聞いたらそんなことはいっていないと、あきれ果てた答弁をせざるを得なくなってしまったのである。

安倍昭恵を証人喚問に引き出せという世論が渦のように押し寄せているが、何をいうかわからない安倍昭恵を出せば、身の破滅になることを一番わかっているのは、安倍晋三自身である。

藤原道長のように、この世をわが世と思っている安倍晋三も、家に帰れば、安倍昭恵にも母親にも頭が上がらない、哀れで小心者の初老男である。

「もう、自分の手には負えない」

『週刊現代』(4月5日号)に、安倍家の朝のこんなシーンが出ている。

3月29日朝、東京・渋谷区の「富ヶ谷ハイム」301号室で、安倍晋三と89歳になる母の洋子が、2人だけで朝食をとっている。

「住み込みのお手伝い・K女史(72歳)の準備した朝食が終わると、洋子がお茶を淹れる。ここに梅干しを入れて飲むのが毎日の日課である。洋子自身は最近、『お茶断ち』をしているという。それが何を意味するのか安倍晋三は怖くて聞けない」(現代)

階下の201号室には、安倍昭恵の姿はない。

佐川宣寿喚問が始まる10日前、洋子が安倍晋三にこういった。

「テレビで安倍昭恵が愛知で講演している様子をやってましたよ。なんでやめさせられなかったんですか!あなたの足を引っ張っているだけじゃないですか!」

あまりの剣幕に、安倍晋三はうつむくしかなかったという。

「もう、自分の手には負えない」。そう、洋子に力なくつぶやいたそうである。

ほれ込んでいるのに、安倍晋三の心安倍昭恵知らず

安倍晋三には女の噂がない。1回目の総理に就任した時、ほとんどの週刊誌やフリーのライターが、彼のカネの噂を追いかけた。

だが、この2点に限っては、ほとんど何も出なかったと聞いている。品行方正なのではなく、女性に関しては、結婚以来、安倍昭恵一筋なのである。

これほどほれ込んでいるのに、安倍晋三の心安倍昭恵知らずである。

現代によれば、安倍昭恵は都内のホテルに「隔離」されているそうだ。安倍晋三のほうは、自宅には帰らず、公邸で過ごすことが多いという。

安倍昭恵は一人ワインを飲みながら、ツイッターフェイスブックをチェックして、安倍晋三を擁護する発言に「いいね」を押しているそうだ。

それが、安倍晋三夫人として今の自分にできる数少ない内助の功だと思っているのであろう。

酒癖が悪く、浮気性で、芸能人も大麻も嘘も大好きな女性が自分の妻だったら、は別れるのか、それともひと思いに殺したいと思うのだろうか。

もちろん安倍昭恵のことをいっているのではない。一般論としてではあるが、安倍晋三の考えを聞いてみたいものである。


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