それは、われわれ国民の側のセリフだと言いたくなる。
「非常に驚きと同時に怒りを禁じ得ない」――。 2018年4月5日、稲田朋美はイラク日報問題について、こう言って防衛省を批判してみせた。
防衛省が「存在しない」と繰り返していた陸上自衛隊のイラク派遣の日報が、実際には存在していたことが 2018年4月2日に発覚。この時点では、文書が「見つかった」のは2018年1月とされていた。
稲田朋美は2018年4月3日、記者団に対して「南スーダンの反省のもとで、しっかり文書管理をするということで、今回徹底的に捜索した結果、見つかった」と、自身の辞任のきっかけになった南スーダンPKOの日報問題が再発防止につながったかのように話していたものだ。
ところが、 2018年4月4日になって、実は1年以上も前に見つかっていたと小野寺五典が発表。すると、冒頭の発言が出た。稲田朋美は日報発見当時の責任者なのである。よくも、こんな他人事みたいな態度を取れるものだ。その被害者ヅラにこそ、驚きと怒りを禁じ得ない。
2017年2月20日の衆院予算委で、イラク日報の存在の有無を聞かれた稲田朋美は、「確認をいたしましたが、見つけることはできませんでした」と答弁。その 2018年3月に問題の日報が陸自研究本部(現・教育訓練研究本部)で発見されていた。
「当時、稲田朋美には報告されていなかったというが、そうやって日報の存在が隠蔽されたのは、国会答弁に難が目立った稲田朋美に対する忖度か、モリカケ問題を抱えていた官邸への配慮としか考えられません」(政治評論家・本澤二郎)
2018年4月5日の参院外交防衛委でも、イラクでの日報が、発見から1年以上も大臣に報告されなかった問題が「シビリアンコントロールが利いていないのではないか」と追及された。小野寺五典は、「シビリアンコントロールが機能していなければ、おそらくまだ公表されていなかった」と苦しい言い訳をしていたが、そんな子供だましは通用しない。
「小野寺五典も稲田朋美も、日報が見つかったことをまるで自分の功績のように言ってみたり、『自分は知らなかった』と防衛省の責任にしたりしていますが、知らなかったこと自体が問題なのです。役所のトップとして、少なくとも監督責任がある。財務省や厚労省などで文書の改ざんや隠蔽、捏造が行われていたことが次々と明らかになっていますが、政治家は『知らなかった』と言って、現場に責任を押し付けるシナリオが定着している。イラク日報問題も、森友問題の公文書改ざんも構図は同じです」(政治ジャーナリスト・山田厚俊)
2017年2月の「イラク日報は存在しない」という稲田朋美の答弁に合わせる形で、日報の存在が隠されたという意味でも、安倍晋三や理財局長の答弁に合わせて文書が改ざんされた森友問題と構図が酷似している。森友の文書改ざんは「理財局内で行ったこと」にされ、政権側は、防衛省の日報隠蔽も「現場の暴走」という形に持っていこうとしている。それが本当なら、文民統制が機能していないことになるが、むしろ実態は、政権の統制が利きすぎていることの表れではないのか。
「本来なら、改ざんや隠蔽を現場が進んでやるはずがありません。安倍晋三政権が権力を官邸に集中させたことが、霞が関の役人システムの退廃と腐敗を招いた。ゴマをする連中は引き立て、ちょっとでも反抗すると徹底的に干す。自民党若手議員の安倍親衛隊は戦前の特高警察のようになり、文科省の前川喜平らは退官しても監視されるありさまです。
そういう強権政治が5年間も続いた結果、官邸の顔色をうかがう官僚ばかりになり、官邸にとって都合の悪いものは隠蔽や改ざんする悪習がはびこる国になってしまった。
防衛省が当初、南スーダンPKOの日報を隠したのも、『戦闘』と書かれていることが明らかになると、安倍晋三政権がもくろんでいた駆け付け警護などの新任務付与が難しくなると考えたからでしょう。そういう意味では、圧力にせよ忖度にせよ、官邸と霞が関が、つるんで悪事を働いてきたことに変わりはありません。そして悪事がバレると、政治家は官庁に、官庁のトップは現場に、現場責任者は部下に押し付けて、自分は逃げ切りをはかる負の連鎖が起きている。こんな情けない行政にしてしまった全責任は当然、行政府トップの安倍晋三にあります」(政治評論家・森田実)
文民統制が壊れたのではなく、“陰の主犯”は文民ということだ。隠蔽や改ざんで誰が救われたか、誰が得をしたのかを見れば、よく分かる。どれも結果として、政権の野望実現と延命に寄与してきたからだ。
もっとも、南スーダン日報問題で、稲田朋美とともに辞任に追い込まれた黒江は今、国家安全保障局の参与を務めている。政権を守るために文書を隠蔽した論功行賞ということか。証人喚問で何も語らず、体を張って政権を守った佐川宣寿も、そのうち要職をあてがわれるのではないか。
「公文書問題では与党議員も『だまされた』と被害者ヅラをし、役所を非難していますが、ここまで有権者を欺いた元凶は何なのか。国家の根幹が揺らいでいるのです。こういう事態を招いた安倍晋三政権には、政権担当能力がないということですよ。自民党は自浄作用を働かせる必要がある。もはや大臣のクビをスゲ替えて済む話ではない。トップが腐っているのだから、内閣総辞職してリセットしなければ、日本は立ち直れません。
森友問題でも、財務省が最初から改ざん前の決裁文書を国会に提出していれば、2017年10月の総選挙の結果は違っていたかもしれない。国民に真実が知らされないまま、強行された総選挙なんて無効でしょう。
政府のやることが何ひとつ信用できないなんて、こんな悲惨な国はないですよ。それでも現政権を守る自民党や国民なら、国際社会と後世の国民からバカにされるだけです。安倍晋三の悲願は、初めて憲法を改正した首相として歴史に名を残すことだといわれますが、その目的は、別の形で達成されるでしょう。日本をおかしくした戦後最低最悪の首相として、歴史に名を刻むのは間違いありません」(山田厚俊)
安倍晋三は 2018年4月4日、国家公務員合同初任研修の開講式で「国民の信頼を得て負託に応えるべく、高い倫理観の下、細心の心持ちで仕事に臨んでほしい」と訓示していた。まったく、高い倫理観なんて「オマエが言うな!」ではないか。
あちこちの役所で同じような不祥事が次々と起きているということは、各省庁ではなく、政権の体質の問題なのだ。政治の私物化で民主主義を冒涜し、国家の統治機構を破壊した破廉恥政権が、今なお政権にしがみつこうなんて、フザケるにも程がある。即刻、退場しか選択肢はないはずだ。