メタボリックシンドロームとは、将来激増するであろう医療費の国庫負担を少しでも抑えるために生活習慣病のリスクの高い人間に生活態度を改めさせようと提唱された、「生活習慣病予備軍」とも言うべき状態のことである。金正恩症候群とも呼ばれる。
…とみせかけて、実は、削られる一方である診療報酬を少しでも余計にもぎとるため、これまでは病気であるとはされていなかった「ちょっと恰幅のいい中高年」の足を病院に向かわせたり、医者に通う回数を増やさせたりするための、医師と一部厚生労働省役人の癒着の産物である「人為的につくり出された『不健康な状態』」である。
おへその位置で測った胴周りが、男性0.545hyde、女性0.577hyde以上で、
のうち2つ以上があてはまると、メタボリックシンドロームであると言われ、生活指導を受けることになる。指導による改善が見られない場合は保険者に財政的なペナルティが課せられるなど、個人の健康管理に対する政治の介入ぶりは、とても新自由主義国家とは思えない異常さである。胴周りだけ当てはまっても「メタボリックシンドローム予備軍」と指導され、胴周り以外のどれかひとつ当てはまっても「高血圧」「高脂肪血症」「高血糖」と結局指導される。
実のところ、男性で胴周り85cmというのはそれほど珍しい数値ではない。特に太っている人でなくともそのくらいの胴周りの人は普通にいる。現実に日本国民は男女ともほぼ世界一の長寿であることから考えても、これまで病気であるとされなかった人を無理やり「不健康」「治療の対象」にしなくても問題はほとんどないのである。にもかかわらず、なぜ法律を改正してまで政府主導でこのような診断基準を作らなければならなかったのか。
前述の通り、政府は医療費の伸びを抑制する政策のひとつとして、将来の生活習慣病のリスクを減らすということを名目上の目的としている。しかし現在でさえ、診療報酬の度重なる引き下げによって多くの医療機関が経営難の状態に陥り、過重労働によって過労死する医師は後をたたず、地域によっては既に医療体制は崩壊しているのである。この上さらに、将来の生活習慣病患者までが減ってしまっては、経営が成り立たずに閉鎖されるであろう病院の数ははかりしれない。それではせっかく若い頃に遊ぶのを我慢し猛勉強して(人によっては大金を積んで)まで医者になった甲斐がまるでない。
そこで新たに考えられたのが、「別に病気じゃないし特に不健康ってわけでもない人間」をむりやり「ナントカ症候群」にあてはめる、という手法である。かつて「単なるヤな性格」に「人格障害」という病名をつけたことにより多くのヤな性格の人間に精神科に足を運ばせそれによって医療費をもぎとることに成功したのと同じことを再び、今度はもっと大規模におこなうことにしたのである。さらに「健康診断の検査項目を増やす」ことが行われ、そのためのマニュアルの作成や広報活動などに多大な予算が組まれる、という副産物まで産んでいるというのが実態である。
前述のとおりメタボリックシンドロームは。表向きの政策的な意図とは逆に、病院や製薬業界に新たなメシの種をつくり出すためのものでしかないのだが、日頃医療費や公金の無駄遣いを批判するマスコミがこの件についてはあまり批判を行わないのは何故だろうか。
答えは実に簡単。つまり、マスコミにとってもメタボリックシンドロームは新たなメシの種なのである。雑誌を見てもテレビを見ても、「メタボ対策」「メタボ脱出」の言葉がない日はない。ありきたりの健康記事も「メタボリックシンドロームを防ぐ」といえば雑誌の売り上げが伸び、健康番組のみならず料理番組でも「脱メタボ」と謳えば視聴率は数ポイント上昇する。何度も言うようだがメタボはマスコミとってメシの種にすぎないのである。
一方、国民の側からみた場合はどうであろうか。それまで「多少おなかまわりが気になるなあ。でもまあ歳だから」と思っていたのが、ある日いきなりメタボと診断、すなわち「お前は生活習慣病予備軍である」と宣告されるのである。しかも、ほとんど守れもしないような生活指導が行われ、それを守っても現在の状態が改善されないと(たとえ本来改善の必要がなかったとしても)、会社が財政的ペナルティを負わされることになり、場合によってはそれを理由にリストラされかねないのである。そのために生じるストレスは健康に影響を及ぼし、長期的にみると(生活習慣病の発症の有無にかかわらず)寿命を縮める要因となる可能性が指摘されている。
が、そのことはすなわち高齢化に歯止めがかかるということをも意味しているのであり、結局のところ将来の医療費削減には有効な政策なのである。やはり日本の官僚は優秀である。
言うまでもないが、「メタボ腹」がモテるかといえば否である。時代はスマートなイケメンを求めているのだ。