森友学園との国有地取引を巡り、財務省近畿財務局が文書を改ざんした時期に理財局長だった佐川宣寿が2018年3月27日、国会の証人喚問に臨む。一私人として喚問される心境はどんなものなのか。森友疑惑の行方を注視する識者たちは異口同音に「ありのままの事実をぜひ語ってほしい」と呼びかけている。佐川宣寿が真実を話すべき理由を、元検事の郷原信郎弁護士、加計学園問題で安倍晋三政権と対峙(たいじ)してきた前文部科学事務次官の前川喜平、同じく元文科官僚の寺脇研、公文書問題に詳しい神戸学院大教授の上脇博之に聞いた。
証人喚問では佐川宣寿の補佐人として弁護士が立ち会うことも考えられる。その場合、佐川宣寿は質問のたびに弁護士に助言を求めるだろうし、弁護士は助言に従った証言が偽証とされ責任を問われることなどを恐れ、わずかでもリスクがあれば「刑事訴追の恐れ」を理由に証言を拒否するよう助言する可能性が高い。
しかし、証言を拒否すれば、世の中の批判が佐川宣寿に集中し、かえって「刑事訴追」を求める社会的なプレッシャーが高まることになる。決裁文書の改ざんで刑事責任を問うのは常識的には「無理筋」と思えるが、検察当局は世論を受け佐川宣寿を逮捕するかもしれない。一方、記憶していることをありのまま真摯(しんし)に証言すれば、他の関係者の証人喚問や、国会の第三者による調査委員会の設置につながる可能性があり、真相解明が進むだろう。そして、佐川宣寿の姿勢は国民の共感を呼ぶだろう。
いずれにせよ、検察の捜査が終われば佐川宣寿は真相を明らかにせざるを得なくなるわけだから、世の中を敵に回さないためにも、2018年3月27日は証言を拒否せず正直に話すことを期待している。
何が起きていたのか、私は国民の一人としてすべてが知りたい。そもそもあのような決裁文書の改ざんを、役所の組織が自分たちの判断でやるはずがない。よほどの事情がない限り、刑事責任を問われるような不正はしないし、違法だと分かっていることに手を染めることはない。政治的な力が働いたとしか思えない。今回の文書改ざん問題は、三権分立を侵す行為で非常に悪質だ。改ざんされた文書は、与党が同意し、国会の調査権に基づいて出てきた文書だ。立法府である、国会も、そして国民も裏切った、非常に重い背信行為だ。
公務員は国民全体の利益のために奉仕すべきであって、一部の人間の利益に奉仕してはならない。佐川宣寿も、この大原則を十分理解した上で、長年財務省で重責を担ってきたはずだ。
安倍晋三政権をあれだけかばった佐川宣寿が、追い詰められ、何を国会で語るのか、多くの国民が見つめるだろう。その中には大勢の公務員も含まれるはずだ。証人喚問でうそを語れば偽証罪に問われる。刑事責任を問われる恐れがあるからと何も語らないことも確かに出来るだろうが、私だったら、絶好の場をもらったと思って、ありのままを語ると思う。
正直、気の毒なようにも思う。佐川宣寿は官僚だったが、今も国民の一人だ。公文書の改ざんという行為の重みを考え、政治的配慮や組織を優先せず、一国民としてすべてを語ってほしいと思う。
寺脇研
佐川宣寿は官僚としての晩節をけがしたが、日本を背負う官僚としての最後のプライドを見せて、事実を詳細に説明してほしい。
今回の問題は、行政システムの根幹である文書主義に疑問を抱かせる結果になり、財務省にとどまらず、全公務員の業務の信頼性の根幹を揺るがす事態に発展した。公務員は信用失墜行為を行った場合、懲戒処分を受けるが、今回の改ざん問題は、いわば日本の全公務員の信用を失墜させたと言ってもいいような非常に悪質なケースに該当するはずで、2018年3月27日の証人喚問は、多くの公務員が高い関心をもって見守っているはずだ。
仮に、佐川宣寿が証人喚問で、刑事事件に問われる可能性があるとして口を閉ざせば、検察などの捜査の進展を待つことになり、その間、日本の行政を取り巻く不信感は高まったままだ。新年度を迎える前に日本の行政を覆ってしまった闇を少しでも晴らしてほしい。
上脇博之
佐川宣寿は国会でうそをつき、自身が改ざんに関与したとされる公文書が国会に提出された。だが、本人の口からは国会や国民に対して何も説明されていない。民主主義の根幹を壊したに等しい。なぜうそをついたのか、真相を明らかにしなくては、民主主義は回復しない。佐川宣寿は、なぜ公務員になったのか。2018年3月27日の証言は誰のためのものか。誰かを守るため、自分を守るための答弁ではなく、国民のため、日本の民主主義のための証言をしてほしい。
どんな聞き方をするか、質問テクニックをどれだけ持ち合わせているのかが決め手になる。刑事責任に問われる一歩手前のところをどれだけ踏み込めるか。特に野党は質問時間が短いので、連携して真相解明につながる質問をしてほしい。
公文書の改ざんや廃棄、虚偽の国会答弁は民主主義の根幹を壊すものだ。今の状況が続けば、現政権下では、都合の悪いものは改ざんや廃棄をすればいいんだ、今回の近畿財務局のように詳細に記録しちゃうとまずいから差し障りのない報告で済ませよう、という方向に進んでしまう危険がある。
その意味で、今回の証人喚問は、壊れてしまった民主主義の根幹を回復するためのスタート地点に過ぎない。佐川宣寿が虚偽答弁を誰とすりあわせたのか。すりあわせた相手、値引きをした当時の担当責任者、そして安倍晋三の安倍昭恵にも話を聞かなければ、佐川宣寿だけの話で真相を明らかにするのは不可能だ。個人的には安倍晋三政権下では真相解明はできないと思う。最終的には内閣総辞職し、次の内閣で真相解明を行うべきだと考えている。
文書改ざんの発覚後、麻生太郎は国会答弁や記者会見で自身の監督責任をよそに「佐川宣寿が」「佐川宣寿が」を連発して元部下の責任を強調してきた。森友疑惑の中心には安倍昭恵がいると野党は批判するが、安倍晋三は「行政の長として責任を痛感する」と陳謝を繰り返している。安倍昭恵が国有地を視察した際、籠池泰典に「いい土地ですね。前に進めてください」と言ったとされる削除された部分の記述について、安倍晋三は国会で「妻に確認したが言っていない」と否定している。2018年3月24日夜には自民党山口県連関係者に「あと1、2週間もすれば落ち着く」と語ったという。
佐川宣寿は自身の判断に基づいて国会でうその答弁をし、それに合わせて文書が改ざんされたのか。政府や与党はそう見ているが、国民の多くがそれに疑問を持っていることは報道機関の世論調査に表れている。