やっと実現した佐川宣寿の証人喚問。焦点のひとつは、「決裁文書」の改ざんについて、どこまで佐川宣寿が真実を話すのかである。
なぜ公文書を改ざんしたのか、いったい誰の指示だったのか。佐川宣寿は、すべて知っているはずだ。誰が考えたって、犯罪行為である公文書の改ざんを役人が自分の判断で勝手にやるはずがない。しかも、決裁書を改ざんしたのは、自分たちの利益のためではない。安倍晋三夫妻を守るためだ。安倍晋三が「私や妻が関わっていたら総理も国会議員も辞める」と口走ったために、慌てて決裁書から「安倍昭恵」の文字を削除している。大きな政治力が働いたのは間違いない。
それでも安倍晋三は、すべての責任を佐川宣寿に押しつけて逃げ切るハラだ。安倍晋三政権は「佐川宣寿が」「佐川宣寿が」を連発している。
しかし、部下に責任を押しつけて自分だけ逃げ切りを図ろうなんてとんでもない話だ。そもそも「公文書改ざん」という事実が発覚しただけで総辞職するのが当たり前である。民間企業だって、不正や隠蔽が発覚したらトップが責任をとって引責辞任している。
まして、改ざんされたのは公文書である。近代民主主義国家で公文書の改ざんは、絶対にやってはいけないことだ。
「公務員による公文書の偽造(刑法156条)は、1年以上10年以下の懲役という非常に重い刑です。騒乱罪(刑法106条)の首謀者と等しい。ここまで重い刑を科すのは、民主主義国家にとって、それほど公文書は重要だからです。だから、アメリカでは50年たったら、すべての公文書を国民に公開するのが原則です。もし、公文書が自由に書き換えられたら、国民はなにを信じていいのか分からなくなってしまう。権力者はやりたい放題になり、民主主義国家は成り立たない。まさか、この日本で公文書が改ざんされるなど、国民は夢にも思わなかったでしょう。公文書の改ざんという一事をもっても、安倍晋三は即刻、総辞職するのが当たり前です」(立正大名誉教授・金子勝=憲法)
改ざんされた公文書は、本当に財務省の「決裁文書」だけなのか。これまで、安倍晋三政権は「安倍晋三の意向」と記された公文書や、南スーダンに派遣された自衛隊の日報を「確認できない」と平然と嘘をついてきた。
まだまだ、改ざんされた公文書があるのではないか。
2018年3月26日の参院予算委で財務省の官房長が決裁文書の改ざんについて「安倍晋三官邸も麻生太郎も指示も関知もしていなかったのは紛れもない事実だ」と強弁していたが、問題は指示があったとか、忖度したとかではない。誰よりも清廉潔白でなければならないはずの公務員が、安倍晋三政権を恐れるばかりに、結果として文書改ざんという重犯罪に手を染めてしまったという事実だ。
いまや霞が関は、北朝鮮の官僚組織と同じである。安倍晋三官邸に“恐怖支配”され、犯罪だと分かっていても、将軍様のご機嫌を損ねないために、実行しなくてはならなくなっている。
「例えは悪いですが、堅気の人が運悪く暴力団と関わってしまった状況と似ています。少しでも逆らったり、邪魔したりしたら、身の危険にさらされかねないので、共犯者として行き着くところまで行くしかなくなってしまうのです」(元経産官僚・古賀茂明)
役人が怯えるのも当然だ。なにしろ安倍晋三政権は、辞めた官僚だろうが、敵とみなせば容赦しない。
天下り問題で辞職した文科省の前川喜平は、「在職中に出会い系バーに頻繁に出入りしていた」と悪意のある記事を書かれ、さらに、名古屋市立中学で授業をしただけで、「国家公務員法違反者が教壇に立てるのか」と安倍晋三チルドレンにイチャモンを付けられた。
2002年の小泉純一郎訪朝をお膳立てした外務省の田中均は、安倍晋三から〈彼に外交を語る資格はありません〉と、なんとフェイスブックの書き込みで口撃されている。田中は退官して10年近く経っていたのに、である。
安倍晋三の異様な“粘着質”がよく分かるというものだが、安倍晋三政権の怖さはただ単に官邸が人事を握っているとか、出世に響くとか、そんな生易しいレベルではない。徹底的に個人攻撃し、社会的に抹殺するのだ。だから、前例を見せつけられ、震え上がった官僚は、政権の言いなりになる。粛清が当たり前の北朝鮮みたいなもので、民主主義とはかけ離れた世界なのである。
「日本は既に実質的な独裁制度が成立してしまっているということですよ。独裁国家では独裁者自身が何も言わなくても、下の者たちは独裁者のために勝手に動く。独裁者は自分で命令する必要はないのです。森友問題で安倍晋三や安倍昭恵の指示があったのかどうかを調べても答えは出てこない可能性は高いし、核心はそこではありません。官僚を自ら勝手に犯罪に手を染めさせるような異常な構造こそが問題なのです。正常化させるには、内閣人事局をなくせばいいということではなく、安倍晋三が官僚機構を仕切っている状況をリセットするしかありません」(古賀茂明氏=前出)
安倍晋三政権に退陣してもらうしか、この国の再生はないということだ。
財務省による「決裁文書」改ざんに注目が集まっているが、森友問題の原点は、国有地が8億円も値引きされて売却されていたことだ。
豊中市議の木村真の情報公開請求に対して、国有地の売却額を財務省が黒塗りにしたことで森友問題に火がついた。もし、木村が気付かなければ、問題にならず、スルーされていたはずだ。木村が言う。
「佐川宣寿の答弁や、決裁文書の改ざんは、“後処理”の話です。そもそも、なぜ官僚が、国民の財産をたたき売ってまで、森友学園の小学校開設に尽力したのか。8億円の値引きは、財務省と国交省にまたがって行われた背任行為です。2つもの巨大省庁が動いたのは、安倍晋三案件だったからだとしか思えません」
実際、籠池泰典が安倍昭恵の名前を出した途端、国有地の貸し付けや売却がトントン拍子で進んでいった。
しかし、国民の財産である国有地を8億円もダンピングするのは、明らかな背信行為である。なぜ、背任罪にもつながる「森友優遇」が役所でまかり通ったのか。
安倍晋三政権による恐怖支配に、役人も従わざるを得なかったのは明らかだ。安倍晋三におもねれば褒められ、逆らえば切られる――。法令順守より、そんな意識が官僚に行き渡っていたということだ。
「役人の汚職はいつの時代もありますが、これまでは、一部の“悪い役人”が、自らの私利私欲のために手を汚すというパターンでした。ところが、森友問題は毛色が違う。今までになかった不正です。役人自身はもちろん、省庁にも目に見えるメリットはないのです。森友問題では、安倍晋三政権に忠誠を誓って職務を遂行し、自分の身を守れることに、役人はメリットを見いだしているように見えます」(木村真=前出)
安倍晋三政権は国民の関心を改ざん問題に集中させようとしているが、森友問題の原点は国有地格安売却という背任行為だということを忘れてはならない。
安倍晋三自民党は「佐川宣寿喚問」で森友問題の幕引きを図ろうとしているが、それで国民が納得すると思ったら大間違いだ。むしろ、国民のフラストレーションは高まるだけである。佐川宣寿を喚問しただけでは、森友問題の“全容”は明らかにならないからだ。
佐川宣寿が関わったのは、「決裁文書」の改ざんだけである。立憲民主党の枝野幸男が「今回の証人喚問は入り口に過ぎない」と言ったように、“本丸”である「国有地ダンピング」の真相は、佐川宣寿の喚問だけでは解明されない。
財務省が国有地の8億円値引きに応じざるを得なかったのは、籠池泰典のバックに安倍昭恵の存在があったからだ。名誉校長まで務めた安倍昭恵の証人喚問が不可欠なのは当然だ。その安倍昭恵付の政府職員として財務省と森友学園側との“橋渡し”役を担った谷査恵子の証言も必須である。谷が籠池泰典宛てに送ったFAXには、〈安倍昭恵にもすでに報告させていただいております〉と記されていた。政治評論家の山口朝雄氏は言う。
「森友問題の根っこは国有地がなぜ格安で払い下げられたのか、ということです。安倍昭恵以下、関係した人物から話を聞く必要があるのは当然です。世論調査でも安倍昭恵の喚問について、約65%が『必要だ』と答えています」
国有地払い下げの真相を知っているとみられるのは安倍昭恵と谷に加え、今井尚哉と迫田英典の4人だ。
「安倍晋三側近」として官邸内を取り仕切る今井は“陰の総理”とまで呼ばれ、文科省の前川喜平は週刊朝日(2018年3月30日号)で、決裁文書書き換えについて〈官邸にいる誰かから「やれ」と言われたのだろう。私は、その“誰か”が総理秘書官の今井尚哉ではないかとにらんでいる〉とまで言っていた。
迫田は、財務省が8億円値引きして国有地売却を決めた時の理財局長で決裁権者だ。“実務担当者”から話を聞かずに、解明などできるはずはない。
「この4人から話を聞かなければ、森友問題の解明は終わらないでしょう。佐川宣寿喚問後、安倍昭恵も、谷も、今井も連鎖的に証人喚問を求める声が上がるでしょう」(山口朝雄=前出)
この期に及んで安倍晋三は、“総裁3選”を諦めていないという。秋に行われる総裁選に出馬し、あと3年間、総理総裁を続けるつもりだ。
安倍晋三周辺は「佐川宣寿喚問が終われば一区切りつく」「国会会期末の2018年6月18日までしのげば逃げ切れる」と楽観しているという。
「安倍晋三官邸は政権延命のために、あらゆる手を打っています。とりあえず国民の目を森友問題からそらすために、2018年4月以降、外交日程を立て続けに入れています。日米首脳会談、日中韓首脳会談、日ロ首脳会談……と、体が持つのかと心配になるほどです。と同時に、御用新聞や御用学者を使って、『いろいろあるけど、やはり国政を任せられるのは安倍晋三しかいない』という世論をつくっていく作戦。ウルトラCは“電撃訪朝”です。金正恩と会談し、拉致被害者の帰還を約束させれば、支持率は一気に20ポイントアップすると計算している。その一方、2018年4月末の米朝会談が決裂し、戦争前夜になれば、安倍晋三批判は終息するという声も上がっています」
粘れば粘るほど、安倍晋三はズタズタになるだけだ。国会前の「安倍晋三辞めろデモ」も、日増しに大きくなっている。
「つい最近まで“安倍晋三一強”が続いていたのが嘘のように、政界の空気も一変しています。これまでは、安倍晋三を批判すると、安倍晋三親衛隊が攻撃し、黙らせてきました。ところが、安倍晋三を擁護すると、逆に擁護した側がバッシングされるようになっています。安倍晋三に善かれと思って行動して、国民から批判された安倍晋三チルドレンの赤池誠章や池田佳隆、和田政宗は典型例です。小泉純一郎、福田康夫といった総理経験者も安倍晋三を批判しはじめている。あきらかに潮目は変わっています」(角谷浩一=前出)
5年間の安倍晋三政権によって、この国は破壊されてしまった。安倍晋三を退陣させ、一刻も早く、この国を狂気から取り戻さないといけない。