森友問題で話題の「決裁文書」とは何か、なぜ書き換えが問題なのか

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2018年3月12日、森友学園の国有地売却に関する決裁文書の書き換え疑惑について、財務省は書き換えを認める報告を行った。この件についての報道も過熱しているが、そもそも官庁の「決裁文書」とはどんなものなのだろうか。元官僚の筆者が解説する。

官庁の「決裁文書」とはどのようなものなのか

森友問題で国有地売却に関する決裁文書を巡り、国会審議が空転する事態になっている。財務省が決裁文書の原本を国会に提出せずにコピーで対応し、しかもそれが原本とは異なる内容のものであるという疑惑、つまり改ざんされた可能性が強まったのがその発端である。そして2018年3月12日、財務省は決裁文書の書き換えを認めた。

当初野党側からは、決裁手続きにおいて審査をする際の担当職員のチェック(ボールペン等を軽く押し押し当ててできる点)の有無が、改ざんの可能性の根拠とされた。一方、与党側からは、決裁文書は途中で差し替えられる可能性があるのだから、改ざんなどではないといった主張も見られた。

そもそも官庁の「決裁文書」とは、決裁手続きとはどのようなものなのか。国会議員も含めて憶測や想像に基づく発言が多いように思われるし、一方で元役人の国会議員にとってはあまりにも当たり前すぎて、そうしたことは当然分かっているのが前提の発言が多いようで、一般有権者の目からはどうも分かりにくく、話が混線しているように思われる。

そこで、筆者は元役人として、自らの経験に基づいて「決裁文書」や決裁手続きとはどのようなものなのか、少々解説してみたいと思う(むろん、基本的には同じであっても、府省や個別の手続きの性格によって形式等の違いは多少ありうるので、その点については予めお断りしておく)。

国の行政機関における決裁とは文書をもって行われる一連の手続き

まず、国の行政機関における決裁とは、一言で言えば集団的な意思決定のことであり、文書をもって行われる一連の手続きの略称である。

正確に言えば、決裁権者に決定、発出、承認等についての決裁を伺う行為であり、決裁権者は形式的には各省の大臣や外局の長になる。ただし、すべての決裁を大臣等にまで上げるのは現実的ではないので、専決規定によって、多くの決裁は部局長に権限が下ろされている。

この部局長には、地方支分部局と総称される、地方に置かれた出先機関の長等も含まれる。要は、その決裁の内容の重みや性格に応じて決裁権者が異なるということで、軽微なものであれば課長決裁のものもある(支出負担行為担当官たる総務課長が典型例)。

筆者の在職中にも、専決規定によって役人が決めるなどというのは罷りならんと主張する大臣がおられて、筆者が担当していた告示(法令文書)の決裁をすべて大臣まで上げることなったことがあった。ところが年間200本程におよぶ告示の決裁について、最初は張り切っていたその大臣も、途中から飽きたのか、現実を身をもって理解したのか、結局は元どおりになった。

筆者からすれば摩訶不思議な森友問題での国有地売却ついての決裁

今回、森友問題での国有地売却の決定にあっては、近畿財務局の管財部にまで決裁の権限が下ろされ、さらに管財部長ではなく管財部次長が代決(代理決裁)の上、部長に供覧(いってみれば報告)というカタチが取られている。

なお、名称は部長ではあるが地方の出先の部長は本省で言えば課長級であり、次長ということになれば課長級分掌職だ。重要な国有財産の売却を、課長級分掌職の決裁としたのは、筆者からすれば摩訶不思議としか言いようがない。

もし、筆者の疑問をぶつければ、「部長不在で代決したのだ」という説明が返ってきそうだが、不在ならば部長在籍時まで待てばいいわけであり、それまで何ヵ月もかかるような話ではないはずだ。この決裁はそんなに急ぐ必要があったのだろうか?

さて、決裁は通常は担当課の係員が起案し、自分の属する係のラインの他、関係する係のラインで係員→係長→課長補佐の順に審査が行われ、課長級分掌職の調査官、企画官といった職がある場合はそこも通って担当課長へ、さらにその局の総務課の審査ライン→局総務課長→局長といったように上がっていく。

決裁文書は私の経験上、決裁伺いと書かれ、例えば「◯◯してよろしいか、伺います。」といったことが「本文」として書かれ、決裁手続き関係者が地位の低いものから高いものへと、文書の下から上へ順番に押印する文書(これは「かがみ」とか「決裁かがみ」と呼ばれている)が一番上に来る。次は、例えば公文を発出する場合はその案(ヘッダーに「(案)」と書かれている)が2枚目で、3枚目以降に説明資料等が添付される。

公文の案のように1枚ものの場合は決裁手続の中で実際に審査が行われ、誤りがある場合は訂正して差し替えられる。筆者は役人1年生の時、毎日のように告示文を作成し、決裁文書を起案していたが、当初は何度か修正を求められ、その度に文書の差し替えを行った。当然のことながら、元の文書は廃棄される。

一方、報告書や年次報告書(白書)のような分量が多い文書の場合は、決裁手続きに先立って審査担当や総括担当による下審査が行われ、誤字脱字から表現ぶり、用語の適否、引用している法令等が正しいものかどうかといったことが細かくチェックされる。

中央省庁の中でも、筆者が在籍した総務省旧総務庁系は特に細かく、文書審査のイロハを徹底的に叩き込まれた。

決裁文書の原本とコピーの記載内容が異なるということはありえない

下審査を踏まえて必要な修正が行われた後、正式な決裁手続が進められるが、この段階では形式的な審査のみが行われる。もちろん修正が正しく反映されていない場合等については、起案者に差し戻し、再修正された文書と差し替えられる。

今回の森友問題での国有財産売却の決裁文書は、公文の発出のような場合と異なり、「かがみ」に多くのことが記載されている形式であるが、添付されている文書は、証明書関係を含め分量が多く、通常であれば下審査が行われたはずである。

仮にその上で誤り等が見つかった場合でも、修正したものと差し替えられるので、決裁文書の原本とコピーの記載内容が異なるということは当然ありえない。

修正・浄書前のものが仮に残っていたとして、文書審査は「見え消し」といって、下審査に出された文書に赤ペン等で上から書き加える方法が取られるので、手書きの修正がなされたものであるはずだ(担当の確認用に破棄せず持っているということはありうるが、一連の手続きが終わってしまえば破棄される)。

結果的には、財務省は決済文書の書き換えを認める格好となった。今回新たに提出された原本は、3月8日に参院に提出された決裁文書のコピー等の内容と大きく異なっており、これは後から内容を変更した文書を作成して、さも最初から含まれていたかのように差し替えたということ、つまり後から正式な手続きによらずに決定をひっくり返したに等しく、単なる文書管理の問題に止まらない、大問題なのである。


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Last-modified: 2019-10-28 (月) 12:24:54